相関の強い電子系は多年にわたって凝縮系物理学研究の中心に位置し、基礎から応用まで最前線は大きく拡がり、現代物理学の基本問題を提起し続けている。最も基本的な問題のひとつは、電子の局在と遍歴を生み出す機構とこれに伴う対称性の破れの解明である。電子は結晶の周期的ポテンシャルがあると、バンド構造を形成し、バンドが電子で埋められると絶縁体となり、その他の電子濃度で金属となる。ところが電子間のクーロン相互作用を考慮すると、周期ポテンシャルの振幅を大きくするにつれ、バンドが埋められていない電子濃度で、無数に絶縁体相が発生する。この絶縁相をモット絶縁体と呼ぶ。電子相関による多体効果が電子の局在を生み出すために理論的な扱いは難しく、一方モット絶縁体と周辺の金属の領域で、高温超伝導、巨大磁気抵抗をはじめ、数々の研究のフロンティアが広がっている。
我々の理論研究と、関連実験研究によって、積年の課題であったモット絶縁体と金属の間の相転移、すなわちモット転移の全貌が明らかとなってきた。強相関電子系は、電子間の局所的クーロン相互作用と運動エネルギーの比U/tを変えるとバンド幅制御モット転移を起こし、化学ポテンシャルμの関数としてフィリング制御モット転移を起こす(図1)[1]。
この転移が一次転移の場合、温度を上昇させると一次転移に伴う物理量の跳びが減少してゆき、臨界温度に達して連続相転移となる。このような場合を古典モット転移とよぶ。一方、絶対零度で連続転移を起こす場合もあり、このとき有限温度では金属と絶縁体の間に明確な区別はなくなり、量子モット転移とよぶ。古典モット転移から量子モット転移に移り変わる境界を、マージナルな量子モット転移とよび、通常の量子臨界点と異なる性質を示す(図2)。マージナルなモット転移では相転移の標準理論であるギンツブルグ・ランダウ・ウィルソン型の相転移理論が破綻し、新しい普遍性クラスを持った量子相転移が生じていることがわかった。我々は異常な臨界指数を予測し、有機化合物での最近の実験結果は予測と一致した。この臨界性はHe3の単原子層での興味深い実験結果とも関連すると考えられる。さらにこの量子相転移が、長年の懸案であったモット転移近傍の非フェルミ液体的な性質や、高温超伝導を引き起こすメカニズムを内包していることもわかってきた [2]。
また、このような理解を進めるための数値計算手法の進展は著しく、量子モンテカルロ法に代わって、我々の開発した経路積分繰り込み群法が高い精度を持つことが実証され[3]、この手法を第一原理計算法に組み込み、パラメタなしに強相関電子系の物性を予測する方法が確立されつつある。
参考文献
[1] S. Watanabe and M. Imada, J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 1251.
[2] M. Imada, J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 1851.
[3] T. Mizusaki and M. Imada, Phys. Rev. B 69 (2005) 125110.
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| 図1:電子間局所相互作用 と化学ポテンシャルμを変化させるとモット絶縁体と金属の間の転移が生じる[1]。 | 図2:モット転移(b)は通常の量子臨界現象とは異なり、臨界温度ゼロの量子モット転移と臨界温度有限の古典転移の間にマージナルな量子モット臨界点が生ずる。 |