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身の回りので物体(巨視的な物体と呼ぶことにします)の質量は、 電子の質量に比べて桁違いに大きいので、巨視的な物体には量子力学的な 効果はほとんど期待できません。 しかし、「とても理想的な巨視的物体を用意して、うまく実験環境を 整えてあげれば、巨視的な物体でも量子効果をみることができるの ではないか?」という期待は持てます。それにそのような試みは、 かの有名な「シュレーディンガーの猫」を実験で検証しようとしたとき、 必ず必要なことです。そんなこともあって、ひと昔前は巨視的なトンネル効果 を見ようという試みが、盛んでした。
こういう試みをやる上でもっとも大変なのは、物体が巨視的であるが ゆえに、それにともなって、量子力学的な効果を邪魔する(これを デコヒーレンスといいます)ようなものが必ず存在します。 それらをひっくるめて、「摩擦」といいます。「摩擦」といったら、 物体と物体の接触面でおこる摩擦力を思いおこすと思いますが、 イメージはそれで十分です。(ただし、ここでいう「摩擦」のほうが 意味が広い。)巨視的な量子効果を見ようとしたら、 この摩擦をいかにして抑えるが問題です。
残念ながら、巨視的トンネル効果は、 最近はあんまりはやってないみたいです。特にジョセフソン接合系で 見事な実験が行なわれたので(あんまりにも見事なので、怪しいん ですけど、、、)、巨視的トンネル効果自体には、それほど 関心が集まっていないようです。でも、「巨視的トンネル効果」と 名前がついてなくても、実は関連する問題というのが、結構いっぱい あるとおもわれます。特に「巨視的」というのは「質量が大きい」 という意味で使われますが、これを「質量が小さくても摩擦が大きいと 似たようなもんだ」と解釈すれば、実にいろんな物理系がその対象になります。 例えば、固体中のミューオン拡散とか、高温超伝導体のc軸伝導とか、 量子ドットの伝導とかです。それから、かの有名な近藤効果とも 関連があります。
ここまで読んでみて、興味が湧いた方は、以下のところも参照してください。
簡単な量子トンネル効果の説明です。
いくつかの物理系で量子トンネル効果のトンネル確率を計算してみました。