疾患細胞生物学講座
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細胞内物質輸送の分子基盤の理解とその破綻による疾患
キーワード:細胞内イメージング、物質輸送、細胞小器官、エンドソーム、エンドサイトーシス、リン脂質、癌、感染



細胞に侵入した後のコレラ毒素の輸送
蛍光標識したコレラ毒素をCOS-1細胞に取り込ませ、取り込ませた時間を0分として一定時間経過後、蛍光顕微鏡で観察しました。15分後にゴルジ体の内側の空間(リサイクリングエンドソーム)へ、75分後にゴルジ体へ順次輸送されていくのがわかります。



リサイクリングエンドソーム局在タンパク質evectin-2を細胞から欠失させると、コレラ毒素がリサイクリングエンドソームから脱出できなくなり、90分後でもゴルジ体に移動できません。

研究課題

1.

物質の取り込みと分泌という二つの異なる方向性を持った輸送を制御するエンドソームの分子基盤
2. エンドソームの機能破綻により生じる細胞現象
3. エンドソームの機能破綻に起因する疾患
4. 細胞内物質輸送を制御する低分子化合物の探索

 我々の体を構成する真核細胞は多数の細胞小器官を有しています。各細胞小器官はそれぞれ固有の機能を果たすとともに小胞を介して物質のやり取りを頻繁に行っており、その結果、細胞小器官全体を繋ぐ広大な物質の交通網が細胞内に整備されています。細胞内で生合成されたタンパク質および脂質は、この交通網を辿ることによって細胞内の適切な場所に運搬され、適切に機能しています。細胞の表面で機能すべき受容体タンパク質が表面に運搬されないと細胞の外のシグナルを感知することができずに疾患の原因になります。また過剰に運ばれてしまうと、これも過剰なシグナルを細胞内に産生することで癌などの疾患の原因となってしまいます。まさに、細胞は”適材適所”ということを知り、生体分子を細胞内に配置しているといっても過言ではありません。
 今までの疾患治療薬の多くは、疾患の原因となる酵素や受容体などの活性を直接阻害するまたは亢進させることを目的として設計されてきましたが、今後は、細胞内で機能する場所という情報まで視野に入れ、疾患で損なわれた生体分子の”適材適所”を実現させる創薬戦略も可能になるであろうと予想されます。本講座では、細胞の持つこの物質の交通網の制御機構を分子レベルで理解することにより、”適材適所”の創薬を確立することを目標とします。特に、物質の取り込みと分泌という二つの異なる方向性を持った輸送を制御するリサイクリングエンドソームをモデルとして、その機能破綻による細胞現象および疾患の同定を行います。