分子薬物動態学教室 前ページへ 次ページへ
薬物分子の体内動態を解明し、安全な医薬品のデザインと医薬品適正使用に貢献する
キーワード:薬物トランスポーター、遺伝子多型、薬物間相互作用、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ファーマコキネティクス、胆汁排泄、尿細管分泌、血液脳関門
生体内の主要な異物排泄臓器である肝臓と腎臓には、種々トランスポーターが発現していることが明らかにされてきた。その中には基質選択性の似たものもあり、こうしたトランスポーターを利用することで、医薬品の体内動態特性を最適化できると考えている。図には、薬効標的を同じくするものの、体内動態特性を最適化することで、個人差を小さくすることに成功した医薬品の例を示した。

肝胆系輸送のhigh throughput screeningシステムとして、肝臓への取り込みと胆汁中への排泄を行う2つのトランスポーターを一つの極性細胞に発現させた(ダブルトランスフェクタント)。ダブルトランスフェクタントでは胆汁排泄に対応する方向性のある経細胞輸送(ベクトル輸送)が観察される。生体内では、脳や腎臓においても、このように複数のトランスポーターが機能的に協関することで、効率的な異物排泄システムを形成している。

研究課題

1.

薬物の体内動態及び薬効の試験管レベルから個体レベルへの再構築:遺伝子多型による体内動態の個人差および薬物間相互作用の予測
2. 薬物の肝腎振り分け機構、血液脳関門透過機構の解明
3. トランスポーターの膜局在制御の解明
4. トランスポーターの利用によるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発
5. 薬物による組織毒性発現機構の解明
6. トランスポーターの転写制御・エピジェネティック制御機構の解析

 薬物による効果や副作用を予測するためには、薬物分子の体内での動きを知ることが必須です。しかし、薬物は様々な物性を持っているために、一概にそれらの動きを説明することはできません。私たちは、これらの薬物を細胞内へ取り込んだり排出する働きを持つ、薬物トランスポーター群の性質を知ることで、薬物がどのような動態特性を示すのか予測できるのではないかと考えています。薬物速度論、生化学的および分子生物学的手法と いった様々な手法を用いて、肝臓、腎臓、小腸および脳における薬物トランスポーターの解析を行っています。また、薬物の効き方には個人差があることが知られています。上記の研究を通して、私たちはこの個人差に薬物トランスポーターが大きく関与していること、また他の薬との相互作用の原因になることも見出してきました。こうした研究は、最終的に副作用を最小限に抑え、薬効を最大限に引き出すことのできる医薬品の開発、使用法の確立につながるものであり、テーラーメード医療時代を見据えた重要な研究領域であると自負しています。