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疾患発症に関わる細胞内シグナル伝達を解明し、創薬を目指す(医科研・分子発癌)
TRAF6は、細胞外からの刺激によって活性化され数種のタンパク質をユビキチン化する。このポリユビキチン鎖は、タンパク質分解は誘導せず、タンパク質間相互作用の足場となり、シグナル複合体の形成を促し、シグナルを伝達する。その結果、転写因子NF-κBやタンパク質リン酸化酵素MAPKの活性化が誘導され、重要な生命現象が制御される。また、その制御異常は、癌をはじめ重篤な疾患発症の原因となる。

正常マウス(左)とTRAF6ノックアウトマウス(右)のX線写真。手足の骨を見ると顕著であるが、正常マウスに比べてTRAF6ノックアウトマウスでは、骨密度が異常に高く骨大理石病を呈する。これは、リウマチや骨粗鬆症の悪化に関与する破骨細胞ができないためである。

研究課題

1.

TRAFファミリーによる転写因子NF-κB活性化シグナル
2. ユビキチン化によるシグナル伝達
3. 癌の悪性化とシグナル伝達
4. 骨代謝疾患とシグナル伝達
5. 自己免疫疾患とシグナル伝達


  研究室のテーマは「癌」「免疫」「骨」である。実は、この3つとも“TRAF6”と”NF-κB”と呼ばれるタンパク質と深く関連している。TRAF6はサイトカインのシグナルをその受容体から受け取り、細胞内へ伝達し、核でのNF-κB による転写活性化を誘導する。ヒトには種々の骨代謝異常や免疫不全が原因の重篤な疾患が存在するが、それと酷似した疾患がTRAF6やNF-κBのノックアウトマウスで再現される。このことは、TRAF6/NF-κBシグナルが正常な骨形成と免疫の成立に必須であることを示している。またNF-κBの異常な活性化は白血病を始め多くの癌においてその発症や進展に重要な役割を担っている。研究室ではノックアウトマウスの作成及び解析や培養細胞への遺伝子導入実験を駆使して癌化、免疫制御、骨代謝におけるTRAF6/NF-κBシグナルの機能を分子レベルで解明するとともに、その成果を疾患の診断治療、創薬に役立てることを目標としている。